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[日本人の精神的危機:心の傷に包帯は巻けるか?]

  格差、ひきこもり、ニート、ネットカフェ難民、ワーキング・プア、
  無差別殺人…。現代の日本社会は、閉塞感や孤独感、生きにくさを象
  徴するようなキーワードに事欠かない。日本国内での自殺者は、その
  数が急増した98年以来、10年連続で3万人を超えた(このうち、
  うつ病が原因とみられる人が全体の18%にのぼり、原因のトップ)。
  これは交通事故死亡者数の5倍以上。世界的に見ても、日本の自殺率は
  米国の2倍、英国の3倍にも上る。

  いま、日本人の精神は傷つき、危機的状況に置かれている。

  ドキュメンタリー映画『精神』は、これまでタブーとされてきた精神科
  にカメラを入れ、その世界を虚心坦懐に観察。現代に生きる日本人の精
  神のありようを克明に描いた。同時に、心に負った深い傷はどうしたら
  癒されるのか、正面から問いかける。

["正気"とは?"狂気"とは?]

  外来の精神科診療所「こらーる岡山」には、統合失調症や躁鬱病、摂食障
  害、パニック障害、人格障害、その他様々な神経症を患う人々が通ってい
  る。その顔ぶれは老若男女幅広く、発病の理由も、病気との付き合い方も
  様々。

  働きすぎて精神的に追い詰められ、休職を余儀なくされたサラリーマン。
  「足が太い」と言われたのをきっかけに拒食症になった女性。周囲に理解
  されず八方塞がりの中、生まれたばかりの自分の息子を死なせてしまった
  母親。自殺したり、自殺未遂を繰り返す人もいれば、何十年も病気とつき
  あい、自らの哲学や信仰、芸術を深めていく人もいる。親や友人にすら病
  気のことを隠している人もいれば、心の病にまつわる誤解や偏見をなくそ
  うと積極的に講演活動をしている人もいる。

  しかし共通するのは、彼らが抱えている様々な心の問題や機微は、現代日
  本に生きる人間なら、病気の有る無しに関わらず、誰にでも身に憶えがあ
  るであろうということ。それは健康な人にとっても、決して対岸の火事で
  はない。病気を患う人の精神世界を照らし出した本作は、患わない人の精
  神世界をも浮き彫りにし、正常と異常、正気と狂気、健常者と障害者の境
  界線を曖昧にさせる。「正常」で「正気」なのは、いったい誰なのか?
  観客は映画によって、自問自答の螺旋階段へと誘われ、自らの世界像の振
  動や変容を余儀なくされるのだ。

[鍵のない精神科病棟]

  こらーる岡山を立ち上げ、現在も代表を務めている山本昌知医師は、病や
  障害のある「当事者」を中心に据えた医療や支援方法を追求してきた人物。
  「病気ではなく、人間を診る」「本人の話に耳を傾ける」「人薬(ひとぐ
  すり)」がモットーだ。

  精神科病院に勤務していた1969年、若き山本医師は病室のドアにかけられ
  た外からしか開かない鍵に疑問を持ったという。「この鍵は、患者のため
  ではなく、医師やスタッフのためにあるのではないか」。そして、病室の
  鍵を取り払う運動の草分け的存在となった。

  自らが開設したこらーるでは、当事者が病院ではなく地域で暮らしていける
  方策を模索し続けている。そのため、診療所には、牛乳配達を行う作業所
  「パステル」や、食事サービスを行う作業所「ミニコラ」が併設され、当
  事者に働く場を提供している。

  しかし、精神科医療を取り巻く環境は、決して順風満帆ではない。映画が撮
  られ始めたのは、小泉政権の下、障害者自立支援法案が国会を通過しようと
  していた2005年の秋。「自己責任」や「受益者負担」のかけ声のもと、
  福祉行政や社会構造そのものが激動期に突入していた。その影響は、精神障
  害者の生活や将来の展望に暗い影を落とし始めていた。『精神』は、社会の
  転換期を如実に切り取る作品にもなったのだ。

[『選挙』の想田和弘監督がタブーに挑戦]

  監督・撮影・録音・編集・製作を一手に担ったのは、自民党による選挙運動の
  舞台裏を赤裸々に描き、世界200カ国近くで上映・テレビ放映された『選挙』
  の監督で、ニューヨーク在住の映画作家・想田和弘。『選挙』に続く観察映画
  第2弾として、ナレーションや説明テロップ、音楽を使用しない独特の映像
  スタイルで、本作を完成。観客ひとりひとりが、スクリーン上で起こること
  を自由に観察し、考え、解釈できる作品に仕上げた。

  また、「被写体の顔にモザイクをかける手法は、患者に対する偏見やタブー視
  をかえって助長する」と考えた監督は、素顔で映画に出てくれる患者のみにカ
  メラを向けた。そのため、撮影許可をひとりひとりから得る作業は困難を極め
  たが、被写体への共感をベースにした撮影姿勢を最後まで貫き、患者たちと
  その魂のありようを鮮烈に描くことに成功した。

  08年10月、アジア最大の釜山国際映画祭でワールドプレミアされた本作は、
  いきなり最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。上映後の質疑応答で観客から質問や
  意見が噴出、終電間際まで一時間半も続き、衝撃の大きさとテーマの普遍性を
  印象づけた。また、12月に行われた中東最大のドバイ国際映画祭でも最優秀
  ドキュメンタリー賞を受賞し、早くも2冠を達成した。そして世界三大映画祭
  のひとつ、ベルリン国際映画祭フォーラム部門(09年)には、07年の『選挙』
  に続き、2作連続で正式招待。他にも世界中の映画祭から招待が殺到している。

  想田観察映画が、ここに再び世界にセンセーションと感動を巻き起こす!

       
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