映画『選挙』
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2009年7月、ライズX他、全国順次ロードショー!
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監督のコメント

観察映画「選挙」について
by 想田和弘

「選挙」の題材は政治だが、政治的な作品ではないと僕は思っている。戦後ニッポンの政治を支配し続けてきた巨大組織・自由民主党。その選挙運動を観察することによって見え隠れする、言葉ではとらえきれない複雑な現実を、観客ひとりひとりが自分なりに感じ取り、解釈してくれることを目指して作った「観察映画」である。

一般の観客にはあまり知られていないことだが、ドキュメンタリーといえども、撮影前に入念な下調べを要求され、 「構成表」とか「シノプシス」と呼ばれる台本を書かされる 場合が多い。製作過程には、監督(ディレクター)だけ でなくプロデューサーやカメラマン、出資者など多くの人が 関わるので、みんなが納得するような「設計図」が必要と されるのである。それは経済上の要請であり、作品が失敗する 確率をあらかじめ最小限に押さえようとするリスク管理的な 発想の現れでもある。

しかし、「選挙」を作るに当たって僕は、構成表や台本を一切 作らず、目の前で展開する現実をとにかく行き当たりばったりで 撮影するという方針を徹底した。自民党の選挙に関する事前の リサーチも、被写体とのミーティングもゼロ。つまり、準備を ほとんどしなかった。あらゆる先入観を捨てて現実を観察し そこから学ぶという、僕なりのドキュメンタリー作りの根本 姿勢を貫きたいという気持ちが強かったからである。撮って みて面白くなければ、潔く撮影をやめてしまえという捨て身の 覚悟もあった。自分で制作費を出しカメラを回して録音も するという、一匹狼型の自主制作だからこそできた、ある種の 贅沢である。幸い、筋書きがないせいか、撮影の現場は 予期した以上にスリルに溢れ「目から鱗」の連続で、僕は途中で やめるどころか、水を得た魚のように撮影を最後まで楽しんだ。

編集の際には、撮った絵と現実音だけで映画世界を構築する ことを試み、ナレーションや説明のテロップ、特殊効果、音楽 などを一切使わなかった。それは、僕が「す」の状態で被写体に 向き合い観察したのと同じように、観客にもなるべく直接的に 被写体を観察し、選挙運動を体感して欲しかったからである。 観客が自分で観察・解釈しなければならないという意味で、 「選挙」は白か黒かの映画ではない。それは現実がそうであるように 限りなくグレーな映画であり、観客が観た後にモヤモヤした 何かを抱えてくれることを本望としている。

 
監督の略歴